The Beyond Discography



イギリスが誇るプログレッシヴ・ミクスチャー・ジャンク・ヘヴィ・ロック・バンドTHE BEYONDの紹介コーナーです。
1988年にダービーで結成されたTHE BEYONDはニール・クーパー(ドラムス)、アンディ・ガットフォード(ギター)、ジム・カーシー(ベース)、ジョン・ウィットビー(ヴォーカル)という4人組。スラッシュ・メタルからの影響が強いヘヴィなギター、ファンキーなベース、手数の多いジャジーなドラムスが渾然一体となった音楽性は当時アメリカで話題を呼んでいたミクスチャー/クロスオーヴァー(RED HOT CHILI PEPPERS、FISHBONE、LIVING COLOURとか)などと比較されたものの、英国ならではのウェットで繊細な音は彼らとはまったく異なっていました。
その動と静が交錯する音楽性は"プログレッシヴ"とすら呼べるもので、彼らのアルバムが『EMI』傘下のプログレッシヴ・レーベル『Harvest』からリリースされたのも納得できるものでした。
当時も今もほとんど語られることのなかった彼らですが、2002年の今、改めてその音楽に触れてみることも意味があることではないかと思って本コーナーを設置した次第です。

一応念の為ですが、本コーナーで紹介しているTHE BEYONDはウッチャンナンチャンのTV番組で転落死した人がいた香港のバンドではありません。

ご意見・ご質問は掲示板までお願いします。

(since 23 April 2002)



Manic Sound Panic
(Big Cat ABB15T)
1990

CARTER USM、FOETUSなどで知られる『Big Cat』レーベルからのデビュー12"。
「Eve Of My Release」「Portrait」「Red Sea」「Lead The Blind」の計4曲が収録されている。
1曲目「Eve Of My Release」から叩きまくるドラムス、轟音ギターと、身体を衝撃が駆け抜ける名曲。
どこか「Smells Like Teen Spirit」を思わせるナンバーで、チャンスさえ与えられていればTHE BEYONDが新しいムーヴメントを起こしていたかも?と妄想させるほどのインパクトだ。
(こちらの方が「Smells Like Teen Spirit」より1年早いし)
既に彼らの音楽スタイルは確立しており、デビューに向けて気合いが入りまくり。
インディーズからのリリースということでやや入手困難だが、ぜひ押さえてもらいたいグレート・アイテムだ。
彼らは本作リリースの時点で既に『EMI』と契約しており、"貸し出し"という形で『Big Cat』からデビューしたという噂もあるが、真相は不明。
ジャケットはジョン・ウィットビー自らが描いたもの。



No Excuses
(Big Cat ABB22T)
1990

『Big Cat』からの2枚目の12"。
3曲入りで新曲は「No Excuse」のみだが、この曲がまた良い。
B面には前作からの「Red Sea」、DEAD KENNEDYSのカヴァー「California Uber Alles」と2曲のライヴ・テイクが収録されている。
デッケネのカヴァーはTHE BEYOND流に消化されていて、良くいえば面白く、悪くいえば邪道。
「No Excuse」はコリン・リチャードスンがプロデュースを手がけている。
衝撃度は『MANIC SOUND PANIC』に劣るものの、やはり秀作。
こちらも最近では入手困難だが、探す価値はあり。



One Step Too Far
(EMI 12EM191(12") / CDEM191(CD))
1991

メジャーの『EMI』と契約、アルバム『CRAWL』からの先行シングル第1弾。
80年代後半からのアメリカのムーヴメントに対するイギリスからの対抗馬、というスタンスで契約したせいか、メジャーと契約してもその牙は研ぎ澄まされたまま。
「One Step Too Far」は『CRAWL』収録と同テイクだが、THE DOORSの「Break On Through」とMUDHONEYの「Touch Me I'm Sick」と2曲のカヴァーが収録されている。
「California Uber Alles」もそうだが、カヴァー曲の選択の妙味も彼らの魅力。
CDシングルと12"がリリースされたが、収録曲・ジャケット共に同じ。
7"は未確認。



Empire
(Harvest 12HARP5300(12") / CDHAR5300(CD))
1990

『CRAWL』からの先行シングル第2弾。
「Empire」はアルバムと同テイク。あまりに手数の多いドラムス、高音ヴォーカルのせいもあり、一瞬レコードの回転数を間違えたのでは?と思うほど。聴いているだけで鼓動と脈が速くなっていくナンバーだ。
2曲目「Everybody Wins」は『CRAWL』日本盤ボーナス曲として収録させた佳曲。
なおCDシングルと12"では異なったジム・フィータス・リミックスが収録されている。
CDシングルには「One Step Too Far」(Brain Surgery Mix)。曲の一番ショッキングな部分を一番最初に持ってくる好リミックスで、オリジナルよりもインパクトがあるかも。
12"収録の「Empire」(Radiation Cocktail Mix)も好リミックスだが、この時期多かった"リミックスのためのリミックス"といった感があり。但しド迫力のエンディングは良い!
12"にはポスターがオマケで付いていた。
7"は未確認。
本作から『EMI』系列のプログレッシヴ・レーベル『Harvest』からのリリース。旧態依然とした"プログレ"でこそないものの、確かに彼らのサウンドからはプログレッシヴな要素が窺えるし、この判断は納得。



Crawl
(東芝EMI TOCP-6915)
1991

デビュー・アルバム。
とにかく全員が忙しそうにプレイする、全編心が休まることのない"逆癒し系"サウンドの真骨頂。
いわゆる"コマーシャル"な音楽ではないものの、『Big Cat』時代と較べると音がビッグになっているのが判る。アンダーグラウンド派リスナーは違和感を感じるかも知れないが、本作は十分に彼らの魅力を表現していると言えるだろう。
もっとも、アルバムから3曲をシングル・カットしたのは大きな勘違いだと思うが。
THE THEやDEPECHE MODEで知られるバリー・クレムスンのプロデュースは高音の鳴りを重視しており、ドラムスのフィルが耳に突き刺さってリスナーの焦燥感を煽る。その一方で、ギター&ベースのヘヴィさがやや薄味に感じられるかも。
日本盤は「Nail」「Everybody Wins」をボーナス収録。
イギリス盤初回CDはデジパック仕様でリリースされた。
アナログ盤は未確認。



Raging E.P.
(Harvest HARS5301(7") / 12HARPD5301(12") / CDHAR5301(CD))
1991

『CRAWL』からのシングル第3弾。
「Great Indifference」の"Screwdriver Mix"リミックス(ラルフ・ジェザードによる)をリーダー・カットに、各フォーマット異なった収録曲でコレクター心をくすぐる内容となっている。
全フォーマットに共通している曲は「Great Indifference」とアルバム未収録の「Nail」。後者のスタジオ・トラックは『CRAWL』日本盤ボーナス曲として聴くことが出来る。
7"は全3曲仕様で、3曲目は「Eve Of My Release」の1989年デモ。音質はあまり良くないが、『MANIC SOUND PANIC』収録テイクに通じるラフさとアンダーグラウンド臭が良い。 4枚のポストカード(メンバー各人)収録のエンベロープ・パック。
12"は全4曲仕様で、「Empire」「Day Before Tomorrow」2曲のライヴ・テイクが収録されている。スタジオ作品をステージでちゃんと再現しているというだけでちょっと感動。ピクチャーディスク。
CDシングルは全4曲仕様で、「Eve Of My Release」89年デモと「Empire」ライヴという7"と12"の折衷盤。それらを持っていればCDシングルは不要だが、ピクチャーCDなのでやっぱり押さえておきたいところ。
アートワークは"洗濯機で牛を洗っている"というもの。何だそりゃ。



Chasm
(東芝EMI TOCP-7738)
1993

2年ぶりの2ndフルレンス・アルバム。『Harvest』と『Music For Nations』のスプリットという変則的なリリースとなった。
前作からのシングルB面で2曲リミックスを手がけていたジム・フィータスがアルバム全編をプロデュース。あまり音楽面で出しゃ張ることなく、バンドの魅力を最大限に引き出すことに専念している。
『CRAWL』よりも重低音を強調したことにより迫力がアップ。はっきり言って全然注目されなかったが、幻の名盤と呼ぶに相応しい傑作だ。
本作からは1枚もシングル・カットがなかった。
一応日本盤も出ている。邦題は『カズム〜暗黒の断層』。


『CHASM』リリース後、彼らはBIOHAZARDのUKツアー前座を務めるなどしていましたが、レコード会社のサポートが途絶えるなどして活動がままならず、94年にバンド名をGORILLAに改名(ベースが交替)。
GORILLAは95年に『GORILLA EP』(Embryo)、『SHUTDOWN』(Disinformation)という2枚のシングルを発表、『Earache』と契約するという噂もありましたが、結局実現しないままに消滅してしまいました。
なおドラマーのニール・クーパーは一時CABLEにも参加していましたが、GORILLAに専念するために脱退。一時はTWINKIE、STUMBLEというダービーのバンドのマネージャーを務めていましたが、現在の動向は不明。

THE BEYONDのアルバムは中古盤屋で200円とかで売られていることが多いので、本コーナーを読んで何か心に引っかかるものがあった人はぜひ聴いてみて下さい。
但しメタル、パンク、ギターポップなど、どのコーナーにあるか判らないのがガンです。


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